ジョー・フレッシュグッズが示すローカルコミュニティへの愛 | Interviews
〈New Balance〉との最新コラボモデル 1000 “When things were pure”のローンチにあわせて来日したジョー・フレッシュグッズへのインタビューを敢行
ジョー・フレッシュグッズが示すローカルコミュニティへの愛 | Interviews
〈New Balance〉との最新コラボモデル 1000 “When things were pure”のローンチにあわせて来日したジョー・フレッシュグッズへのインタビューを敢行
米シカゴ西部出身のデザイナー兼クリエイティブディレクター ジョー・フレッシュグッズ(Joe Freshgoods、本名:Joseph Robinson)が、〈New Balance(ニューバランス)〉との最新コラボモデル 1000 “When things were pure”のローンチにあわせて、今年4月に来日した。彼は自身の名を冠したブランドのデザイナー、シカゴのクリエイティブ・ハブ兼ショップ『Fat Tiger Workshop』の共同オーナーを務める傍ら、2020年より〈New Balance〉のコラボレーターとして、これまで8つのモデルを発表。ファッション/スニーカー界で華々しく活躍する一方で、若いアーティストや地元のブラックコミュニティへの支援も精力的に行うなど、慈善活動家としての顔ももつ。『Hypebeast』はいま最も注目すべきクリエーターのひとりであるジョーにインタビューを行い、そのデザイン哲学、多彩な活動に込められた想いについて聞いた。
Hypebeast:今回のコラボレーションモデルには“When Things Were Pure”というテーマが付けられていますが、まずはこのテーマについて説明していただけますか?
僕の作品のテーマというのは、全てこれまでの個人的な活動にも繋がっているんだ。もちろん、いま自分が皆から注目されるような状況に置かれているということにはとてもワクワクしていて、インタビューを受ける機会を得られることも嬉しいと思ってる。でも、自分がまだ若くて、何者でもなく、ピュアだった時代っていうものに対して、ちょっとノスタルジックに感じている部分があるんだよね。今はしっかりとした仕事を持っていて、生きていくためにやらなきゃいけないことが常にあるんだけど、やっぱり若い頃っていうのは、全ての物事に対してピュアな気持ちで接していたように思う。ファッションはもちろん、家族や友人たちに対してもね。そういう時代がちょっと懐かしいという思いがあって、“When Things Were Pure”というテーマを決めたんだ。
“Y2K”がデザインソースということですが、あなたにとって2000年代とはどのような時代でしたか?
僕の全てのコラボレーションが、自分のバイオグラフィーと結びついている。前回のコラボモデル、990v4 “Memories in Monochrome(モノクロームの思い出)”は、僕が12歳より前の時代を反映しているんだ。今回のモデルのデザインソースである2000年代は、自分が14から15歳ぐらい、ハイスクール時代だね。ちょうどその頃の僕は、いま実際にやっているような仕事に携わっている未来の自分を思い浮かべながら、色んなことを楽しんでいたよ。だからその時代の自分の生活そのものがピュアだった、ということになるね。
その時代に影響を受けたファッションや音楽などのカルチャーを教えてもらえますか?
2000年代というのは、ストリートウェアの初期段階だったと捉えている。今はインターネットが一般的に普及したことでその純粋さが薄まり、ダメになってしまった部分があると思う。例えば、昔は人と違うものや良いものを探すために、頻繁にショップに通ったり、色々な手段を駆使してやっと欲しいものを手に入れることができたけど、今はインターネットを使って検索すれば簡単に見つけられるよね。その便利さが、人々のファッションに対する純粋さを損なってしまっている状況があると思う。ファッションだけでなく、サブカルチャー全般についても同じことが言える。現在は当時のように自分が求めるものを一生懸命探して、頑張って手に入れる、経験するというようなことが少し欠けてしまった時代。だから当時を今は懐かしく感じてるよ。
過去のインタビューでeBay等でアーカイブを見るのが好きだと発言していたのを記憶しているのですが、今でもそうやって情報収集している中でアイデアが浮かんだりするんですか?
70年代、80年代、90年代の雑誌やドキュメンタリーが好きで、そこからインスピレーションを受けることが多い。そういったイメージをeBayやPinterestなど、あらゆるウェブサイトから集めたりしてるね。
今回のプロモーションムービーでは地下で行われているパーティをフィーチャーした映像が使われていました。あのムービーは、何か元になったシーンなどがあったんでしょうか?
あれは当時のシカゴのフットワークシーンで盛り上がっていた、Wala Camというダンス・コミュニティからインスピレーションを受けている。人々が円のようになって集まり、その輪の中心でキッズが音楽に合わせてダンスのスキルを競い合うバトルがちょうどブームになってくるような時代だったので、そのムーヴメントをフィーチャーしたんだ。
今回New Balance 1000をベースモデルに採用した理由を教えてください。
1000は、これまで誰もコラボレーションのベースに選んでいなかったモデルということがまず大きい。今回のコラボモデルをきっかけに初めて復刻されるんだけど、誰もやってないことをやるっていうのが僕にとっては重要で、良い経験になるし、自分のキャリアとしても目立つポイントになると思う。それがうまく成功すれば、やったことの意義が大きくなるしね。
シューズのデザインについてはいかがでしょう?
デザインに関しては、もちろんベースとなったオリジナルの1000からも影響を受けているんだけど、カラーは2000年代にシカゴの半地下で行われていたパーティをイメージして、その空間の色味、少し汚れていたり、埃が溜まっていたりするような雰囲気を再現した。
色味はかなり独特ですね。このモデルでは2カラーが展開されていますが、どちらもピンクがキーカラーになっています。ピンクはあなたにとってどのような色ですか?
自分が好きだったラッパーのキャムロン(Cam’Ron)がピンクのアイテムを着ていた事もあって、元々大好きな色なんだ。若い頃、彼の影響から自分もピンクのアイテムを着たいと思ったんだけど、当時はそんな色を使っている服はなかなか売っていない。それで自分でピンクのアイテムを作りはじめたのが服作りのきっかけになったんだ。一般的にピンクというのは女性の色というイメージが強いと思うけど、僕はすごくマスキュリンなカラーだと捉えている。自分独自の世界観をつくっていくには、ピンクが必要不可欠な色だったし、今ではこの色が自分のトレードマークみたいになった。
New Balanceとのパートナーシップは4年ほど継続していますが、あらためて、あなたにとってNew Balanceとはどのようなブランドですか?
他のブランドからもコラボレーションのオファーは実際あるんだけど、やっぱりNew Balanceが自分に求められているスキルを一番発揮できるパートナーだと思っている。コラボレーションを続けていくと、通常は徐々に新鮮さを失ってしまうよね。でも、New Balanceに関してはやりたいことをある程度やらせてもらえるし、自分自身でありながらコラボレーションができるような環境を整えてもらっているから、非常に良い関係性を築けていると思う。毎回新作をデザインするときは、みんなに飽きられないように前のモデルとは違う工夫を凝らしているよ。
そもそも、あなたが最初にNew Balanceというブランドを意識したのはいつ頃ですか?
実は僕の地元のシカゴでは、New Balanceはあまり一般的なブランドじゃないんだ。もちろん、ニューヨークやボルチモア、ワシントンといったイーストコーストの都市では有名だし、ビックブランドだということは知っていたけれど、元々は自分には馴染みのあるブランドではなかった。逆に、だからこそ彼らとのコラボレーションが上手くいったんだと思う。全く新しい、初めてのアプローチができたからね。
数年前からNew Balanceのプロジェクト “Conversations Amongst Us(わたしたちの間の会話)”のクリエイティブディレクターを務めていますよね? このプロジェクトについて、具体的に教えていただけますか?
うん、この“Conversations Amongst Us”は非常に興味深いプロジェクトで、関わることになってすごく興奮したし、大きなチャンスだと思ってる。ブランドが行うプロジェクトとしては、社会にとって意義のあるものだと感じていて、実際世界に対して大きなインパクトを与えていると思う。このプロジェクトにはさまざまなプログラムが組み込まれていて、例をあげると、New Balanceがスポンサーをしているアスリートやエンターテイナーといったバックグラウンドの異なる著名人たちとの会話(Conversation)がある。彼らとの会話を通して、世界に対して色々なメッセージを投げかけているんだ。また、New Balance本社の黒人のスタッフから成るプロダクトチーム「The Black Soles」とタッグを組んでコレクションを発表したり、寄付をしたり、社会貢献につながるような活動をしてきた。2021年から始まってもう3年くらい続いているけど、自分にとってすごく重要な活動になっている。大きなブランドは世間的には良いことを表明して、口先だけで実際は何もしないことはよくあるよね? でも、このNew Balanceとの取り組みは違う。彼らの社風にも関係していると思うけど、このプロジェクトを通して社会正義であるとか、そういった理念をきちんと伝えて、世界に変化をもたらすことが少しずつでもできていると感じてる。
ここで少し趣向を変えた質問を。ジョー・フレッシュグッズという名前の由来を教えてください。
え、そのことを聞いたのは君が初めてだよ(笑)。僕の名前の由来は未だかつて誰にも聞かれたことがない。……恥ずかしいんだけど、Twitter(現:X)のアカウントを作るときにユーザー名が必要だったから、そのときに思いつきでfreshgoodsという名前をつけたんだ。それを今でもそのまま使ってるだけ。もっと深い意味があればいいんだけどね(笑)。
あなたのこれまでの活動を見ていくと、地元シカゴへの思い入れがかなり強いと感じています。今シカゴで最も注目しているムーブメント等はありますか?
自分が主宰するCommunity Goods(コミュニティー・グッズ)というチャリティプロジェクトに注力している。2020年から継続しているプロジェクトで、地元で使われなくなった学校の教室を使って芸術教育を中心としたプログラムを実施し、彼らには文房具や本などの教材も無料で提供しているんだ。やっぱり、自分は今すごく成功して恵まれた環境にいるわけだけど、地元には経済的な問題を抱えていたり、教育の機会にも恵まれていない人たちがたくさんいる。そういった厳しい状況にいる人たちに対してどこか罪悪感を感じていて、彼らに何かお返ししたいという想いでこの取り組みを続けているよ。
日本の印象についても聞かせてください。来日は何度目ですか?
今回で3度目かな。日本は大好きな国で、比べるつもりはないんだけど、アメリカより自由を感じるし、平和な気持ちで過ごせるんだ。やっぱり僕自身が黒人ということもあって、アメリカで暮らしていると、街を歩いていても後ろから誰かが襲ってくるんじゃないかとか、常に気を張っていないといけない。だからちょっと息苦しさを日々感じているんだよね。だけど、日本はそういった日常からエスケープできる。特に東京はすごくたくさんの人がいるにも関わらず、みんな周りの事は気にしない、自分のスペースだけ気にすればいいみたいなスタンスだから、僕としてはリラックスできるんだ。他の街でもそんな感じで過ごせてるから、日本の環境が合ってるんだと思う。
日本で気になるブランドやクリエーターはいますか?
やっぱり友人のVERDY(ヴェルディ)。そもそも日本に初めてきたのは、2018年に彼と行ったポップアップのため。そこから色んな人と知り合ったことで自分の視野も広がり、今の活動にも繋がっている。他にも若いデザイナーや新しいブランドもどんどん出てきてるけど、僕にとってはVERDYが一番かな。
最後の質問です。今後の展望や、現在進行しているプロジェクト等があれば、話せる範囲で教えてください。
今年8月にシカゴで開催される音楽フェスティバル、Lollapalooza(ロラパルーザ)のクリエイティブディレクターを務めていて、ポスターのデザイン等を手掛けている。もちろん、New Balanceのプロジェクトは今後も続けていくよ。あとは今ようやくお金のために働くという状況から脱して、自分の好きなことをやれるような立場になったので、これから本当にやりたいことを実行していきたいと思ってる。自分の人生でやりたいことリストがあって、その項目にひとつづつチェックを入れていくみたいな感じ。具体的には、若いアーティストやグループに僕が持っているプラットフォームを活用してもらい、彼らに光を当てるようなことができないかと考えている。例えば、そういった人たちを自分が採用してあげるっていうのも1つの手段だと思う。あるいは自分が色々な場所に出ていって経験を話すことも何かの役に立つかもしれない。さまざまな方法で、若い人たちのコミュニティを支援していきたいと思ってるよ。