ラグジュアリー電気自動車 BMW i7 は“7”なのかを検証する
かつての走りの遺伝子は、EVの7シリーズにも受け継がれているのだろうか。『Hypebeast』編集部森口の本格クルマ試乗記第3弾
「BMW(ビーエムダブリュー)」の7シリーズと言えば、「Mercedes-Benz(メルセデス・ベンツ)」のSクラスや「Audi(アウディ)」のA8と並び、自動車大国ドイツ御三家が送り出す、最高峰高級セダンのひとつで、基本的に“後部座席が主役”となるクルマ。なんだけど、BMWの7シリーズだけは少し違っていて、この3大フラッグシップモデルのなかでも走りの爽快感が一歩秀でている。後部座席に座ったオーナーが、「運転手、ちょっと代わって、俺が運転する!」と言って、いっぽうで運転手は「これだから嫌になっちゃう」とか言いながら、“駆け抜ける歓び”を楽しむクルマだと、自動車専門誌『NAVI』や『ENGINE』の編集長でもあった鈴木正文氏に教わった。
そして、時代は流れ、その“7”が車名に入った電気自動車が登場している。BMW i7である。かつての走りの遺伝子は、BMW史上もっともハイスペックなEVであるi7にも受け継がれているのだろうか。後部座席の快適性に加えて、あの運転の楽しさは同居しているのか。それらを検証するべく、3ラインナップあるi7のなかでも最高峰の“BMW i7 M70 xDrive”(4WD)を借りて、新潟・弥彦村までドライブすることにした。
で、今回は完全電気自動車である。当たり前だけど、エンジンは積んでいない。なので、ガソリン車の7シリーズのエンジンを呼び覚ますようにエンジン始動!って感じではなく、Mac Book Proの電源ボタンを押すように、システム始動! って感じでパワーボタンをONにする。V6エンジンが目覚めるわけではなく、静かにシステムが起動する。ブレーキを踏みながらONにする点は同じだが、i7の場合は、ONにしてアクセルを踏めば、秒でスッと進む。起動・始動は慣れれば即発進。これを味気ないとするか、さっぱりしていていい、とするかはオーナー次第。
BMW Japan本社がある汐留からi7を走らせ、青山へいったん立ち寄る。残りの電池残量は、100%から98%ほどに減る。荷物をピックし、いざ関越自動車道へ。高速道路に入ってすぐ、運転支援システムを起動。速度制限のあるストップアンドゴーのACC、レーンコントロールやステアリングサポートがついたアシステッドドライビングモードの2つがあり、迷わず、アシステッドドライビングモードを選択。いわゆる“車の中にもうひとりいる”的な、細やかな調整をしてくれる。車線もキープしてくれるし、しっかり追従してくれるし、これは運転していて全然疲れなさそうである。絶対に寝ちゃいけないけど、寝ても大丈夫なのではと思うぐらいの安心感はある。
そして、車内は非常に静かである。やっぱり電気自動車ってすごい。高速道路で100km/hぐらいになるとタイヤの走行音は聞こえてはくるものの、意識をしないと全く気にならない。この静かさは、「Rolls-Royce(ロールス・ロイス)」のスペクターに近いものがある。
約1時間ほどで、関越自動車道を走るi7は東京都から埼玉県(新座市)に入った。ここでのバッテリー残量は90%。つまり、都内へ戻ってきたときに残量10%は必ず必要である。バッテリーの大きさにもよるけど、なんとなくどれぐらいの距離でどれぐらいのバッテリーを喰うのかを肌感で把握しておくこと。これは大事な気がした。ちなみに、“i7 M70 xDrive”は、ボディ床下にリチウム・イオン電池が収納されていて、その総エネルギー量は105.7kWhとかなり大きい。満充電の走行可能距離は、スペック上は570kmだ。
美意識を持って走るのが正解か
走行モードは、「PERSONAL」「SPORT」「EFFICIENT」「EXPRESSIVE」「RELAX」「THEATRE」「DIGITAL ART」の7つから選ぶことができた。80km/hを越えてくると「SPORT」モードが本領を発揮するそうだ。いざ「SPORT」選択するとシートのサイドサポートがきゅっと身体に寄り添い、i7との一体感が生まれる。アクセルは踏み込めば踏み込むほど底なしのパワーが出そうな気配があり、フルアクセルにすればきっと後ろから思いっきり蹴飛ばされたようなスピードがでる。2760kgもある巨体にもかかわらず、不思議とその重さをまったく感じささせない。
また「SPORT」モードにすると、コックピット周りは赤いライトに変化しながら、猛獣チックにはなるのだが、車内は引き続き静かで、気分も引き続き優雅なので、飛ばそうという気持ちにはそこまで切り替わらなかった。ただ、“走り”が面白くないわけではない。電気自動車が登場したての頃、回生ブレーキが効きすぎて(とくに同乗者が)妙に酔うみたいなフィーリングをたまに感じたけれど、i7はそんな電気自動車の走り心地から別次元にある。すこぶるスムーズなのだ。シフトチェンジのないそのスムーズな動きを感じながら、このエレガントな電気自動車で美意識を持って走る、そういう走行が楽しい。道中、くねくねのワインディングも走ったけれど、グイグイ攻めるのではなく、丁寧に、美しく、道を攻略しながら走った。激しい音がしないこのクルマは、山の中で静かに走らせるのが正解だと思った。ガソリン車の7シリーズは、“運転手、ちょっとどいて”、だったかもしれないけど、i7は、“運転サポートシステム、ちょっと休憩してて”とばかりに、この巨躯で綺麗に走っていく。優雅に転がしていく。そんなシン・駆け抜ける歓びがあった。
ドライビングモードを、「THEATRE」モードに切り替えてみた。後部座席には、(オプションの)特大スクリーンが天井から展開され、リアガラスに黒幕がかかる。(実際に後部座席に座ってみたらスゴかったので後述するが、)運転席からはバックミラーが黒いスクリーンで埋まり、後方確認はサイドミラーでやりくりしなくてはならない。英国車の「LAND ROVER(ランドローバー)」なら、後方カメラを映すデジタルミラーにすっと切り替えれるのだが、どうやらドイツ勢はデジタルミラーを採用していない模様。むむ、i7は、ドライバーファーストではないのか。
後部座席の快適性の進化がすごい
駐車したタイミングで、i7の後部座席に座ってみた。これは小宇宙なルームシアターである。スマホが内蔵されたような後部ドアのタッチパネルを操作すると、Netflixを起動したり、オットマンをせりあげたり、マッサージ機能を使ったりと、あれこれできる。かつてないほどゆったりとしたシートはフルフラットにはならないものの、足が伸ばせて、至福の時間を生む。そこらのタブレットより遥かに大きい31.3インチのシアタースクリーンを観て、好きなシャンパーニュを飲みながら、隣に座った友人・恋人と会話すれば、移動は最高にラグジュアリーな時へと変わる実力を秘める。この快適性の進化は、走りの心地よりもさらにアップデートされている。ただ、あまりに快適すぎて、すぐに寝てしまうのも事実。
結論
結論として、BMW i7は“7”だった。後部座席に座っていても、運転手や運転支援システムに、“ちょっと運転させて”ときっと言いたくなる。さすがに運転支援システムは、“これだから嫌になっちゃう”とは言わないけれど、この機能で高速道路を運転すれば疲れにくいから、長距離ではとくに余裕を持ってハンドルを握れるのも運転したくなるポイント。全長5,390mmとビッグだが、あれこれ軽快なので、この大きなクルマを簡単に操れている自分に酔える。そしてなにより、この優雅なクルマを優雅な気持ちで、美しく駆け抜けていくことが楽しい。
ただ、もっともっと“7”らしさを求めるなら、今回試乗した四輪駆動の“BMW i7 M70 xDrive”ではなく、ドライバーの操作がダイレクトに反映される後輪駆動仕様の“BMW i7 eDrive50 M Sport”のほうがBMWらしい走りが楽しめるかもしれない。また、後部座席に乗る予定もなく、誰かを乗せて走ることが少ないなら、i7ではなく、i7より軽量・軽快なi5のほうが走り自体はいいかもしれない。引き続きガソリン車の7シリーズは“7”らしくて良い。しかし、シン・運転の楽しさと、進化しまくったシン・快適性の同居を求めつつ、かつ人生に余裕があるならば、i7は選択肢として大いにありである。
BMW i7 M70 xDrive
全長/全幅/全高:5,390mm/1,950mm/1,545mm
ホイールベース:3,215mm
交流電力量消費率(電気自動車)WLTCモード:212Wh/km
一充電走行距離WLTCモード:570km
最小回転半径:5.8m
車両本体価格:2,198万円〜