新しい盾で戦う Alfa Romeo 初の BEV “JUNIOR" について
アルファ ロメオの電気自動車第1弾の試乗会が、イタリア・ミラノで行われた。試乗したカーライフ・エッセイストの吉田由美がリポートする
「Alfa Romeo(アルファ ロメオ」」はイタリアを代表する歴史と伝統のある高級自動車メーカーだが、イタリアにはさらに上をいく「Ferrari(フェラーリ」」や「Lamborghini(ランボルギーニ)」といったスーパーカーブランドが多いこともあり、現在はかなりニッチなブランドと思われているかもしれない。
アルファ ロメオの歴史は古く、設立されたのは1910年。イタリアらしい派手でグラマラスなデザインと、高性能なエンジン、官能的なエンジンサウンドやドライビングパフォーマンスに人々は魅了された。1930年代から1950年代にかけてはF1をはじめ数々のレースシーンで活躍したが、1920年にはフェラーリの創始者エンツォ・フェラーリがアルファ ロメオのテストドライバーとして入社。その後、エンツォはアルファ ロメオのセミワークスレーシングチーム「スクーデリア・フェラーリ」を設立。独立したフェラーリ社は今や誰もが知るスーパーカーブランドであり、レーシングチームを持つ。現在公開中の映画『フェラーリ』もそういった背景を思い浮かべながら観ると、より深く愉しめることだろう。
そんなエンジンブランドのアルファ ロメオだが、今後の新車ラインアップは、2027年には全車BEV(電気自動車)になるという。その第1弾となったのが、アルファ ロメオ“JUNIOR(ジュニア)”だ。
イタリア・ミラノは、アルファ ロメオ誕生の地。ややこしい話だが、この新型ジュニアは、(ご存じの人も多いかもしれないが、)もともとアルファ ロメオ“Milano(ミラノ)”として、2024年4月に発表されたのだ。しかしそれからわずか5日後、イタリア政府の指摘を受けてミラノという名前を取り下げ、代わりにジュニアという名前となった。ミラノと名がNGだった理由は、ミラノを生産するのがイタリア国内ではなく、ポーランドの工場だからだという。これはアルファ ロメオが属する同じくステランティス傘下の「Peugeot(プジョー)」“e-2008 ”や「Fiat(フィアット)」“600e”などと同じ電動車用のプラットフォームe-CMPを共有し、ポーランドのティヒ工場で一緒に生産されるためだ。しかしアルファ ロメオの首脳陣は、「3年以上前からアルファ ロメオは、ミラノの企画、開発、テストなどすべてイタリアで行ってきた」というが、確かに車名に都市名を入れるのは冷静に考えれば微妙かもしれない。たとえば日産が“横浜”という車名にするようなもので、ミラノだからなんとなくカッコイイ気がするが、冷静に考えると……。
ただ、アルファ ロメオはそれだけ強い思いをミラノ改めジュニアに込めたに違いない。だからこそ、新型ジュニアの国際試乗会をイタリア・ミラノで開催したのだろう。正確にはミラノから車で約1時間ほどの場所に、アルファ ロメオの聖地「バロッコ テストコース」がある。現在はアルファ ロメオも傘下に収まる「ステランティス プル―ピンググラウンド」という名称となり、ほかのブランド車のテストもここで行われる。私が試乗に行った日もカモフラージュされたマセラティやフェラーリと思われる車が走っていた。
新型ジュニアには、3気筒1.2リッターVGTエンジンに21kWモーターを組みあわせたマイルドハイブリッド車“Ibrida(イブリダ)”と、イブリダの四輪駆動モデル“”Ibrida Q4(イブリダ Q4)”、54kWhのバッテリーを搭載する2種類電気自動車(BEV)156hp/260Nmの“Elettrica(エレットリカ)”と、高性能版280Nmの“Elettrica Veloce(エレットリカ ヴェローチェ)”の4種類があるが、試乗車はエレットリカ ヴェローチェのみだった。そのサイズは、全長4173㎜×全幅1781㎜×全高1505㎜(欧州参考値)で、現在のアルファ ロメオのラインアップでは“Giulia(ジュリア)”より背は高いものの、最小サイズとなる。また、同クラス最軽量の1593㎏に収まっている。
デザインはアルファ ロメオのデザインチーム「アルファ ロメオ チェントロスティーレ」が手掛け、なんといってもユニークなのは盾形の大型グリル。アルファ ロメオには代々、フロントグリルに大型の盾型モチーフが掲げられるのだが、その中にアルファ ロメオのエンブレムとなっているミラノの市章である赤い十字とミラノを支配していたヴィスコンティ家の紋章、人を飲み込む大蛇がすかし絵のように入り、斬新だ。最近はグリルが大型化するのがトレンドだが、まさかこう来るとは目から鱗だ。しかし同時に、このデザインがこれまでの美しいアルファ ロメオを台無しにしているような気がしていた。が、ジュニアの実車はそんな心配は皆無だった。むしろこのエンブレムがカッコイイ!
ちなみに、この盾形の大型グリルにアルファ ロメオの紋章が入るのは「Progresso(プログレッソ)」というグレードだ。その両側には横に3つ並ぶ破線状のアダプティブ型フルLEDマトリックスヘッドライトが存在感を際立たせる。そして、Cピラーのパネルには大蛇のマーク「ビショーネ」が浮き出る。「ビショーネ」はインテリアにも至る所に使われ、エアコンの吹き出し口やダッシュボードの横部分、メーターパネル内、ワイヤレス充電のトレイの中にも施されている。
また、アルファ ロメオの高性能モデルには四葉のクローバー「クアドリフォリオ」のマークが与えられるが、新型ジュニアには、エアコンの吹き出しデザインが「クアドリフォリオ」となっている。つまり、新型ジュニアは、アルファ ロメオの歴史と伝統が進化した形でてんこ盛りなのだ。
インテリアで特徴的なのは、10.25インチの望遠鏡型(テレスコープ)のメーターパネルと10.25インチTFTスクリーン。そしてSabelt製のヘッドレスト一体型のスポーツシート。ラゲッジルームは400L 。フロントフードを開けると充電ケーブルが収まる。タイヤはミシュランのパイロットスポーツEVの225/40R20。20インチのホイールにも「クアドリフォリオ」のデザインとなっている。
試乗の舞台となったバロッコのテストコースは1962年に作られ、「世界一のテストコース」と言われるだけあって広大な敷地を持つ。今回は1周約20㎞、110ものコーナーがあり、アップダウンも多く、凹凸やさまざまな路面があるコースが用意されていた。
今回の試乗では、ペースカー付きで5台ずつがコースを走った。スタート/ストップスイッチを押し、アクセルを踏むと車は静かに、そして滑らかに新型ジュニアは動き出す。
ドライブモードには、「ナチュラル」「ダイナミック」「アドバンスド・エフィシェンシー」をコンソールにあるスイッチで変えることができる。またDモードからBモードに変えると回生の強さが変わる。去年、同じくステランティス傘下の「アバルト」“500e”の試乗会もここバロッコのテストコースで行われたが、その時はワインディングが続くテクニカルなショートコースを走行し、アバルト500eの長所である優れたハンドリングと加減速のつなぎの滑らかさ、安心感と安定感のあるブレーキ、そしてアバルト500eの個性を際立たせる轟音に酔いしれたが、今回はそんな演出はない。しかし、クルマの加減速と、曲がる、の連続への没入感。楽しすぎる。
私は最後尾からほかの人たちがドライブする新型ジュニアの後ろ姿を見ながら走ったが、後ろ姿もなかなかカッコイイ。そして、コースが素晴らしい! オペラの主人公になったような気分でドライブできる。
新型ジュニアはエンジン車じゃなくても、私が乗ったことがあるアルファ ロメオ感を十分に感じた。官能的なエンジンサウンドがなくても、十二分に楽しめるスポーティコンパクト。アルファ ロメオは確実に変化している。そしてこれが、アルファ ロメオ最新の味なのだ、と。
日本へは2025年中ごろ導入予定らしいが、これはもっと早くに導入してほしいモデルだ。そして個人的にはハイブリッドも試乗&日本導入を希望する。