映画 AGGRO DR1FT の東京上映を記念した野村訓市 x ハーモニー・コリン特別対談 | Interviews
旧知の仲である2人の姿をとらえたポートレートも公開
『Hypebeast』読者なら一度は観たことがあるであろう数々の名作を生み出してきた映画監督 ハーモニー・コリン(Harmony Korine)。1973年、アメリカ・カリフォルニア州ボリナスで生まれた彼は、ニューヨーク大学在学中にスケートパークでラリー・クラーク(Larry Clark)と出会ったことをきっかけに、映画制作に没頭。その翌々年となる1995年にはラリーとともに『KIDS/キッズ』を発表した。その実験的なスタイルと反体制的な内容から一躍注目を集めたハーモニーは、その後、『ガンモ』や『ミスター・ロンリー』など新たな作品を次々と世に送り出し、2013年にはセレーナ・ゴメス(Selena Gomez)らが出演する『スプリング・ブレイカーズ』を公開。その才能は映画監督の枠には収まらず、現在は作家や写真家など幅広い分野でも活躍している。
そんな彼の最新作『AGGRO DR1FT(アグロドリフト)』は、全編サーマルレンズで撮影された実験的アクション映画だ。本作品は、ジョルディ・モリャ(Jordi Molla)とトラヴィス・スコット(Travis Scott)が出演し話題を集めた。作品の舞台となっているのは、マイアミビーチの裏社会。暴力や狂気に支配された世界で、熟練ヒットマンがターゲットを追う過程を映し出している。物語が進むにつれて捕食者と獲物の境界線が曖昧になっていくような、サイケデリックなストーリー展開に。
本作の公開は、2023年9月に第80回『ヴェネツィア国際映画祭』を皮切りに、米国各地の劇場で限定的に行われた。加えて、これまで過去6カ月間にわたり、映画館からギャラリー、ストリップクラブ、ライブ会場まで、世界各地のユニークな場所で上映イベントを開催。このワールドツアーのラストを飾ったのが、去る6月1日(日)より数日間開催された、東京での大規模イベントだ。
東京・渋谷にて行われた本イベントでは、ハーモニーのカルト的人気を誇る過去の映画作品と舞台挨拶を伴う『AGGRO DR1FT』の上映に加えて、彼の率いるマルチメディアデザインコレクティブ EDGLRD(エッジロード)初となるエキシビジョン、豪華ゲストのDJパフォーマンスを取り入れた一夜限りの『AGGRO DR1FT』の体験型上映イベントが展開された。
今回『Hypebeast』では、本イベントに際して17年ぶりに来日したハーモニーと、彼と旧知の仲である野村訓市を迎えたスペシャル対談を実施。本記事では、ハーモニーと野村氏の仲の良さが伺えるポートレートも公開しているため、あわせてお楽しみいただきたい。
野村訓市(以下、K):前回東京に来たのはいつだったっけ? ミスターロンリーのリリースのときだよね?
ハーモニー・コリン(以下、H):ギャスパー・ノエがエンター・ザ・ボイドを撮影してた時だったかな。
K:そんな前だっけ? あの撮影、俺がロスト・イン・トランスレーションのロケーション(のアレンジを)手伝ったの知って、ギャスパーに俺の映画でも手伝ってくれっていわれたんだよね、そういえば。どんな映画?って聞いてから断ったけど(笑)。六本木でヤクザが映り込むゲリラ撮影だなんてとても。
H:(笑)。12年くらいは来れてなかったってことか?
K:2007年か2008年じゃなかったっけ。
H:もっとか。
K:以来、ハーモニーの新作映画についてのニュースやらアートの話は海外サイトでたくさん見てはきたけど、日本に来ることはなかったからね。日本のファンにはご無沙汰すぎる来日じゃない?
H:そうだな、なんでだろう。多分さ、遠すぎるんだよ(笑)。東京は大好きだけど。まぁあれ以来、たくさんのものを作ってきたよ。
K:新しい映画を数本作っていたけど、アーティストとしての活動が活発になったよね? 映画だけじゃなく、アートの領域でも活動しようと思った理由は? ガゴジアン(アートギャラリー。世界13都市に展開し、世界で最も影響力のあるギャラリーのひとつとして知られている)に所属して個展とか色々やってきたと思うけど。
H:15年くらい前かな、やりたいことはどんな形を取るにしても全部やろうと思うようになったんだよ、映画だけじゃなく広告やファッション、ペインティング、なんでもね。そのなかでもペインティングには特により幸せを感じるからかな。外部から遮断されたとてもプライベートなことだからね。
K:自分ひとりでできるしね。
H:そう。映画制作はいろんな人との共同作業が必要だろ? だからまだナッシュビルに住んでいた頃からペインティングを始めて、ガゴジアンで展示をするようになった。
K:今はマイアミに住んでるものね。ナッシュビル時代からもう絵を描いてたんだ?
H:うん。あの頃、ダウンタウンにビル一棟丸々の大きいスタジオを持ってたんだけど、そこでね。
K:あぁ俺が一度遊びに行ったとこだ! 大きなビンテージのサインが天井からぶら下がってた。
H:そう、あそこ。あの頃はいい時期だった。映画も、ペインティングも作れたし、広告関連の仕事もやったり。色々な種類の仕事をすることでさまざまな世界を体験できた気がするよ。
K:広告といえばCMの仕事も結構やってるよね? わりと意外でびっくりした。
H:広告関連の仕事は好きなんだよね。カメラを工夫したり色々な実験をしながらストーリーを端的に伝えられる。それに、チームの人たちと一緒にいろんなことを試せるからね。ファッション関係の仕事もたくさんやってるんだよ、Gucciとかいろんなブランドと。
K:それは観た! チョコレートかなにかお菓子のCMを作ってなかった? 誰かから“ハーモニー、チョコレートの映像作ったぜ”って聞いて、どういうこと? ってなったことある。
H:やったやった(笑)。けどかなり前だぜそれ。20年前とか。多分初めて作った広告じゃないかな。Thornton’s Chocolateのもので、実は俺が作った広告のなかでも最も出来のいいもののひとつだ。
K:すごく実験的なチョコレートCMってこと?
H:実験的なチョコレート(笑)。
K:共通の知り合いに会ったとき、「ハーモニーは最近どうしてる?」と聞くとさ、「やつはペインターになったよ」って言われてたよ。「それで映画よりももっとデカイ金を稼いでるっぽい」と(笑)。
H:アハハ、まぁある意味事実だな(笑)。けどペインティングは本当に楽しいよ。今ロンドンのハウザー&ワース(世界で20の展示スペースを持つ、アート界に強い影響力を持つギャラリー)で展示も開催してる。サーモグラフィーからインスピレーションを得た絵なんだけどね。
K:サーモグラフィーといえば今回の映画だけど。前回制作した映画はThe Beach Bumだったっけ、5年前くらいだったよね? それが去年か、急にハーモニーが新しい会社を立ち上げてトラヴィス・スコットと新しいクレイジーな映画を作るって聞いてさ。それで友達がこれがハーモニーの新しい会社のInstagramだと見せてくれたんだけど、誰もその名前の読み方がわからないっていう。
H:わざとやってるんだよ!(笑)
K:だと思ったよ(笑)。会社を始めたきっかけとか、名前の意味も含めて教えてくれる?
H:意味はないんだよね、ただEDGLRDはEDGLRD。音の響きが面白くて好きなんだよ、文字の並びも好きだ。やっていることに関してはもうすぐすべてが明らかになるよ。パートナーと一緒にずっと考えていたアイデアなんだ。最近、従来の映画やエンターテインメントに興味を失くして、もっぱらビデオゲームをやったり子供達が観るようなものを観てたんだけどそのなかでシンギュラリティ、技術的特異点ってやつを見つけたんだよ。すべてがひとつにつながったというか。あと、それでテクノロジーへの興味が出てきた。
K:ハーモニーはテクノロジー寄りというよりも、むしろクレイジーなアイデアが出てきてそれを実行するフィジカルな人だったよね?
H:まあね。けどここ数年でテクノロジーへの興味がどんどん出てきたってわけ。
K:それが子供たちとビデオゲームで遊んだりするなかでとか、最近の世のなかで起こっていることが理由で?
H:まぁ自分がやりたいことが、テクノロジーとエンターテインメント、両方に通じた会社を作ることだって気づいたんだよ。今会社では40〜50人が働いているんだけど、彼らはみんなデザインやVFX、ゲームディベロッパー、グラフィックアーティストなんだ。
K:必要な人材はみんな社内にいるってことだね。
H:そう。今、会社では実際にテクノロジー自体を開発していて、もっと感覚で感じられるアートワークを作ろうとしている。ゲームのなかにいるような、ドラックでキマってるような体験ができるね(笑)。より感覚的なエクスペリエンス、って感じかな。今までのエンタメや映画の次に来るようなものだよ。
K:そういうことなんだ。初めてEDGLRDについて聞いた時はどんなものになるか想像できなかったよ。ハーモニーといえば映画作ったりドローイングしたりというイメージだったから。EDGLRDのなかにはスケートボードチームもあるよね? 映像会社にスケートチーム? ってなってびっくりしたんだけど。マジかって。
H:俺自身がスケートをするのが好きだからね、会社の一部としてちゃんとスケートチームもあるよ。ちょうど今日Instagramにアップしたんだけど、悪魔がこちらに出てきているようなデザインのボードも作った。スケートボードのビデオももうすぐ完成する予定だよ。
K:それもAGGRO DR1FTのようなサーモグラフィー的な映像?
H:いや、これは違うよ。サーモグラフィ的な映像は今回のムービーだけ。
K:でもハーモニーの会社で作るってことは普通のスケートボードのビデオってよりもクレイジーでしょ?
H:そうだね。コアの部分にスケートボードはありつつも、ゲームっぽかったり映画っぽかったり色々混ぜてみたり。ゲームのアバターやキャラクター、スキンを作って現実世界に出してみたり。ようはスケートというプラットフォームの上で自由に行ったり来たりできるような感じかな。
K:Fucking Awesomeにいたショーン・パブロやヴィンセント・トォウゼリーもチームにはいるでしょ? 初っ端からすごいチームを作ったなって楽しみにしてるよ、ビデオがリリースされるのを。EDGLRDのこれからをもう少し教えてくれる?
H:もうすでに2作目の映画も完成していて、これから作る3作目は、俺は厳密にはクリエイティブディレクターなんだけど実際は若手に任せてる。会社内でテクノロジーを使って作っていく感じかな。俺は裏方で、みんなが制作していくって感じ。
K:子供のときから全部自分でやりたがる子だったといってたけど、ついにそれを実行できるプラットフォームを作ったというのがEDGLRDってことなんだね。
H:そうなんだよ。俺は集中力が全然続かないし、辛抱できないタイプなのにずっとなにかを作っていたいんだ。一番嫌なことは諦めることで、同時に多次元的、いろんな要素があるものを作れるようになりたかった。ビデオゲームに映画、服、スケートボードそのどれにもそれぞれのアイデアや美しさ、ビジョンがある。で、それらを分けないで全部やろうと思ったわけだ。いたずら番組を作ってるって感じかな。今日本にいるタイミングでアニメの制作会社とも話をしてる。アニメを作るデカい計画もあるんだ。さっきも言ったがベースとなるプラットフォームやウェブサイトはあと数週間でリリースされて、色々と発信を始めていく予定だよ。服や音楽、カルチャー的に面白いものならなんでもプロダクトとして出していく。だから、誰もが直接アクセスできてそこでなんでも体験できるような独自のプラットフォームにしていくよ。テクノロジーに関しては今開発段階なんだけど引き続き進めていく。これはマジで面白いよ。Dream MachineとかDream Boxって呼んでるんだが、考えたものを直接現実世界に造り出すことができるんだ。
K:なんかまるでイーロン・マスクとしゃべってる気分になってきた(笑)。
H:ははは、それこそイーロンもNeuralink(イーロン・マスクが設立した会社。脳とコンピューターを繋ぐインターフェイスを開発、先日人間への脳インプラントを始めて実施)で色々やってるが、俺たちのも完成に近づいてる。これまでに見たことのないような、思考をそのまま画像に落とし込むことにも成功してる。SFの世界のことが実際にもう起きてるんだよ、もうすぐその実施例も見せると思う。
K:すごいね。俺にはもう理解不能だけどEDGLRDをフォローするように若者に言わなくては(笑)。今回上映されたAGGRO DR1FTについてちょっと聞きたいんだけど。今までハーモニーは世界中を回って上映ツアーしてきたでしょ、変わった場所で? どこかの記事で最近映画をそんなにみなくなったって読んだんだけど、映画とか映画館で映画を観るっていう行為への興味がなくなってきた感じ?
H:まだ興味自体はあるんだけど、自分でもよく分からないんだよ。感覚が焦げついちまったのかもしれない。ただ、もうあんまり映画を観に行かなくなったのは確かだよ、ここ数カ月は特に。子供の頃好きだった映画を観返したりもするんだけど、あの頃のようには映画を見れなくなったし、なんだか強制されている気分になる。映画以外のものを見ていることが多いかな。
K:でもまだ映画制作は続けていくし、その新しい魅せ方を探ってるんじゃなくて?
H:AGGRO DR1FTも100%映画とは言えないんじゃないかと思ってる。もちろん映画ではあるんだけど、作っていくうちに誰も映画として考えたことがないような別のものになってきたんだよね。今、俺が作ろうとしているものは“体験”に近い。レイヴシネマというか、暴力に近いというか。
K:レイヴ! 確かに。
H:だからスクリーンで上映するとしても配給会社を入れず、たくさんの映画館で従来のように上映するのは止めた。その代わりにレイブに近い上映イベントをやってるんだよ。最初の上映はLAのストリップクラブでやった。つまり映画館とは違うロケーションでイベントやショーみたいになってるんだ。
K:去年末のマイアミで行ったよ、俺。
H:そうだった、来てくれたよな、Boiler Roomとやったやつ。
K:そうそう。Boiler Roomに来なよって言われたから、誰がDJなのか聞いたらハーモニーだって言われてマジで! って(笑)。いつDJは始めたの?
H:さっきも話したけどEDGLRDではすべてのことを自分達でやろうって決めたからな、自然な流れでDJも始めることになった。
K:DJは楽しい?
H:うん、楽しいね。俺を若く、そして忙しく保ってくれる活動って感じ(笑)。
K:そりゃ大事だよ。俺たち2人とも1973年生まれの同い年のおじさんになってきたから。最後にEDGLRDとは?
H:EDGLRDの未来は、”心を読むこと”。“Digital drugs”だな。
K:(笑)。あと会社とは関係ない質問にはなるんだけど、最近はどんな音楽を聴いてる? どんなことに興味があるのかとか、今の子達にハーモニーがどんな人か説明するのに。
H:うーん、なんだろうな。BurialとかロンドンのTwo Shellとか。Two Shellは一緒にプレイしたこともある。あとはPlayboi CartiとかFutureも聞くよ、DJ RRoseも好きかな。
K:新しい音楽はいつもどこで見つけてる?
H:誰かのおすすめを聞くことが多いね、Spotifyとかも入れてないし。オフィスでキッズが聴いてる音楽を教えてもらったりもするよ。
K:日本の音楽は聞いてる? マジカル・パワー・マコ(伊豆出身の音楽家。1980年代初頭にはすでにアンビエント、テクノの原型のような音源を制作)とかAcid Mothers Temple(1990年代に登場したサイケデリックロックバンド)とかどこで知ったんだみたいな日本のバンド好きだったじゃない?
H:マジカル・パワーマコ! 最近は聞いてないけど大好きだったな。
K:カセットも持ってたよね(笑)。
H:お前以外とこんな話しないよな(笑)。 彼は本当に最高だけど何者なのか誰も知らないよな。
K:1970年代初頭に音楽を作り始めてたと思うけど、彼の音はめちゃくちゃ変化に富んでるんだよね。
H:あぁ、アルバムごとに全く違うものだった。ほかに誰か面白いアーティストいたら教えてくれよ。
K:分かったよ(笑)。あまり観なくなったといっていたけど最近で一番好きだった映画は?
H:韓国のアクション映画のカーターかな。ここ数年で最高だった。アクションシーンは今まで見てきた映画のなかでも1番で、ゲームから出てきたみたいだったよ。
K:全くノーマークだった。観てみる。あとはアート。俺たち世代ではない、新しい世代のアーティストで興味を持った人はいる?
H:全然いないんだよな、探しちゃいるんだけど。
K:誰か他にも、君が今興味がある人はいる? アーティストでもミュージシャンでもなんでも。
H:うーん、わかんないな。それよりも今自分が興味があるのはさ、Fortniteみたいなゲームなんだよ。
K:(笑)。
H:あとはYouTuberとかストリーマーの動画を見たりさ、Mr BeastやKai Cenatのは面白い。ゲームはCall of Dutyみたいな一人称視点のシューティングゲーム(FPS)が好きだな。Rainbow Six SiegeはFPSのなかでも特に最高だ。
K:しばらくちゃんと会わないうちにハーモニーはゲーマーになっちゃったと。
H:だね(笑)。今や映画の時代が終わりを迎えてゲームの時代が始まってるって感じだからね。ゲームは映画と違って何カ月も楽しめるからな。昔のゲームだけど、GTA5をここ5カ月間くらいはやってたかな。この前Fortnuteでは20キルを達成できたよ! ものすごい達成感だったぜ(笑)。